同期の御曹司様は浮気がお嫌い
「え? 会社は?」
減給処分で異動が命じられたけれど、解雇ではないのだから会社に在籍しているはずなのに。
「今も会社にいるよ。これは副業」
「そう……なんだ……」
「減給だと生活きつくて」
禁止されているはずの副業をしなければいけないほど生活が苦しいのは私と同じだ。下田くんの方が処分の対象期間が長い。
「大変だよね……お子さんも産まれるのに……」
他人事のように言ってからしまったと青ざめる。これではまるで捨てられた嫌みではないか。
「そうだね……」
下田くんは複雑な顔をする。
「今から話せない? もうすぐシフト終わるんだ」
「遠慮するよ」
誘いに即答する。今すぐこの場を離れたい。
「それじゃあね……」
これ以上話す気はないので下田くんから離れようとすると呼び止められた。
「波瑠は? 今どうしてるの?」
「私は求職中。面接全滅してるよ」
低い声音で伝える。その原因の相手に訴えるように。
「その割には元気そうだな」
「え?」
「見慣れない格好してる。服の趣味変わった?」
「あ……」
今着ている服は優磨くんに買ってもらったものだ。確かに以前の私では着ない系統だ。
「前はもっと地味だった。今は羽振りも良さそうだし……」
下田くんは私の腕に目をやる。思わず優磨くんからもらった時計を隠す。
「そうでもないよ……」
また嫌みに聞こえたのか下田くんは不機嫌そうな顔をする。
「新しい彼氏でもできた?」
「うん……」
正直に言った。私を裏切った下田くんへの当てつけもあった。
「へー……切り替え早いね。俺のこと引きずってないんだ」
「そうじゃないけど……」
別れたばかりの頃はかなり辛かった。でも今こうして下田くんを前にしても、もう恨みを抱いていないのは優磨くんの存在が大きい。