同期の御曹司様は浮気がお嫌い

「俺は引きずってるよ」

「え?」

「何度もかけたのに、電話に出てほしかった」

「わざわざ公衆電話からもかけてきたのは下田くん?」

「そうだよ。俺はずっと波瑠の声が聞きたかった」

「そんなこと言われても出るわけないじゃない。もうブロックするから」

「波瑠のこと、まだ好きだよ」

目を見開く。下田くんは何を言っているのだろう。

「ふざけたこと言わないで」

「ふざけてないよ、本気で」

「浮気してたくせに」

「でも本命は波瑠だった」

意味不明な発言をする目の前の男が理解できない。

「白々しいね。選んだのは下田くんだよ。選ばれなかった私が浮気相手でしょ」

「妊娠しちゃったからだよ。そうじゃなきゃ波瑠を選んでた」

開いた口が塞がらない。目の前の男と付き合っていたなんて信じられない。

「相手が妊娠したから入籍しろって言われた。だから仕方なく」

「本当に最低だね」

自然に言葉が出た。避妊しなかったのは下田くんなのにまるで奥さんが悪いかのような言い方だ。

「私ね、つくづく思うんだ。下田くんと離れて良かったって」

こんな男と出会ってしまった奥さんに同情する。私を不倫相手だと思って突き飛ばすほどに下田くんを愛しているのに。

「俺は後悔してる。波瑠を裏切ったこと」

「何を今更……」

「波瑠と居るとプレッシャーだった。自分が清く正しい人間でいなきゃって思ってた」

「え? 何それ……私、そう思わせるほど聖人君子じゃないよ?」

「そう思っちゃうんだよ。自然と、強くいなきゃって。ダメな自分を波瑠には見せたくないって思っちゃう。常に良い男でいたいって思ってた」

下田くんの本音を初めて聞いた。付き合っていた頃もそんなことを言われたことなどなかったのに。

< 83 / 162 >

この作品をシェア

pagetop