同期の御曹司様は浮気がお嫌い
「電話には出てくれなくても、こうして偶然会えた。それってそういう巡り合わせってことじゃん」
「そんな残酷な巡り合わせは拒否するよ」
「入籍したことを後悔してる」
「そもそも私は下田くんと付き合ったことを後悔してるよ」
「やり直したい。波瑠のそばにいられるなら、離婚だって考える」
「入籍したってことは奥さんのことを大事にしようって思ったからだよね? ならもう私のことは忘れて。お互いに今のパートナーを大切にし……」
「なあ、今の彼氏って優磨?」
下田くんは私の言葉を遮った。
「…………」
質問に答えるべきか迷う。優磨くんの存在を隠したいわけじゃないけど、下田くんに言いたくないと思う。
「だと思った。あいつ、前から波瑠を狙ってたもんな」
下田くんは眉間にしわを寄せる。何も言っていないのに優磨くんと付き合っていると察している。私自身気づいていなかったのに下田くんは優磨くんの気持ちを知っていたのだろうか。
「波瑠が変わったのって優磨のせいでしょ?」
まるで優磨くんが私を悪くしたような言い方だ。
「私は何も変わってないよ」
「変わったよ。見た目も話し方も何もかも。俺の言うことには何でも同意してくれたじゃん」
下田くんは改めて頭の上から靴まで私の全身を見つめる。
「全部優磨の趣味かよ……」
その言葉に優磨くんに対する憎しみを感じる。
「変わったのは下田くんだよ。下田くんの行動が全ての原因なんだから」
私たちが傷つけ合うことになったのは下田くんのせいだ。
「優磨と居れば働かなくてもいいもんな。羨ましいよ」
あからさまな嫌みに私も眉間にしわが寄る。
この人は私が望んで無職でいると思っているのだろうか。