同期の御曹司様は浮気がお嫌い
「私、ずっと無職でいるつもりないんだけど」
「もし城藤家に嫁いだら専業主婦だろ? どうせそれを狙って優磨に取り入ったんじゃないの?」
怒りで顔が赤くなる。
「何も知らないくせに……」
私がどれだけ苦しんだと思っているのだ。誰のせいで退職にまで追い込まれたかって知っているのに。
「そんな高そうな時計して、俺のこと蔑んでるのは波瑠だろ。こっちは副業しないと生活できないってのに、子供が産まれるから大変だろうって嫌みかよ」
「なっ……」
それを下田くんが言うのか。嫌みを言われても文句を言えないことをしたというのに。
私たちの様子に周りの人が好奇の目を向けてくる。
警備員と不穏な会話をしている私は怪しいと思われていることだろう。
「帰る。もう会うこともないだろうからお元気で。奥さん大事にね」
そう言うと私は早足で下田くんから離れた。
最悪最悪最悪……。あんな人と4年も付き合ってきた私って本当にアホだった……。
「波瑠?」
「え?」
「大丈夫?」
フォークを持ったままぼーっとする私に優磨くんは心配そうな顔を向ける。
「体調悪い?」
「ううん! 大丈夫!」
本当は気分が悪い。下田くんに会って心に靄がかかったように不快だ。
「何かあったらすぐ言うんだよ」
「うん。大丈夫」
優磨くんには下田くんに会ったなんて言えない。また嫌な気持ちを思い出したくないし、それを優磨くんとも共有したくない。
「明日の休み、行きたいところがあるんだけど付き合ってくれる?」
「うんいいよ。どこ行くの?」
「友人がパン屋を経営してて、新店舗をオープンするからお祝いに行きたいんだ」
「そうなんだ。楽しみだね」
優磨くんは自分のことのように喜んで笑う。優磨くんが嬉しそうだと私も嬉しい。
この人と出会えてよかった。私は恵まれている。