同期の御曹司様は浮気がお嫌い
「やっぱりその女! 浩二の女ね!」
下田くんの下の名前を呼びながら私たちの目の前に立ったその人は、下田くんの頬を思いっきり叩いた。
「この浮気男!」
大きな声と肉を叩く音に周りのお客さんが私たちを見て立ち止まる。
「あんたねこのクソ女!」
今度は私へと怒りをぶつけ始める面識のないこの女性のカバンにはマタニティマークのキーホルダーがついている。それを見て私は理解した。この人は下田くんの奥さんだ。
「人の男盗ってんじゃねーよ!」
奥さんが両手で私の肩を押したからバランスを崩し、倒れて尻もちをついた。それでも怒りの治まらない奥さんはテーブルの上の紙コップを手に取ると私に投げつけてきた。軽いカップは私に直接当たることはなかったけれど、足元に落ちたカップから飛び出たコーヒーがスカートの裾に茶色いシミを作った。
「ふざけんな!」
奥さんの大声に店から社員が出てきた。
「大丈夫ですか?」
遠くから警備員が走ってくるのも見えた。このままではまずいと思ったのか下田くんは奥さんをなだめる。
「落ち着けって! 取り敢えず中に入ろう」
店に入れようとするけれど奥さんはもう一度下田くんの頬を叩く。
「あんたがこの女と浮気してるの知ってるんだから! 私がつわりで苦しんでるのにふざけんなぁ!」
奥さんが叫びながら泣き始める。私たちの周りには人が集まり始めた。
混乱して頭が真っ白の私は店から出てきた社員に「大丈夫ですか?」と声をかけられたけれど恥ずかしさと怖さで顔を上げられなかった。
私たちは警備員に商業ビルの従業員事務所に連れていかれソファーに座らされる。下田くんと奥さんは商業ビルの社員に仲裁されながらもずっと言い合いをしていた。
会社に連絡が行き上司が到着すると商業ビル側に厳重注意され、今後を話し合うために会社に戻されると私は小会議室に閉じ込められた。隣の大会議室では下田くんと奥さんと社長と上司の四人で話し合いがもたれた。