翠玉の監察医 消されるSOS
空の瞳から涙がこぼれる。幼い子どもにとって家族の愛を受け取れないというものはどれだけ辛いだろう。蘭はブローチを握り締め、ポケットから小さく黒いボタンのようなものを取り出す。

「今の私たちには、空さんを救うことができません。大人の世界というものは子どもが想像する以上に理不尽で、汚いものなのです。でも、私たちはあなたを救いたいと思っています」

蘭はそっと空のもう片方の手の平に黒い何かを握らせる。そして真剣な眼差しで言った。

「もしも、お家で逃げ出したい辛いことがあった時、迷わずに助けを呼んでください。そして今お渡ししたこの機械を決して離さないで持っていてください」

「これに「助けて」って言ったらお姉さんたちは来てくれるの?」

空はどこか不安げに蘭を見つめる。蘭は「必ずあなたをお守りすると約束します」と言い、立ち上がった。



蘭が空に手渡したのは、小さな盗聴器だった。人の家庭の中を盗聴するなど犯罪行為だが、空を助けるにはこうするしか方法はないと蘭は思ったのだ。

「私のやり方は乱暴でしたでしょうか?」
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