翠玉の監察医 消されるSOS
ガラスが割れていく音に、「な、何!?」と部屋の中が静まり返る。風にカーテンがふわりと揺れた。蘭は窓に足をかけ、リビングに姿を現す。

「窓から失礼してしまい、申し訳ありません。空さんを保護しに参りました。世界法医学研究所の監察医、神楽蘭と申します」

蘭は呆然とする男性と真希に対して丁寧にお辞儀をし、自己紹介をする。男性の近くには全身に怪我を負った空がぐったりと倒れていた。

「か、監察医が何の用なの!?ガラスを破りやがって!!弁償しろ!!」

真希が怒り狂うも、蘭はそれを冷たい目で見つめるだけだった。

「監察医は人を解剖するのが仕事です。私は、多くの幼い子どもを解剖してきました。事故で亡くなった子ども、病気で亡くなった子ども、そしてーーー虐待によって命を落とした子どももいます」

「それが何だ?」

何が言いたいのかわからない、と言いたげな男性に対し、蘭は言った。

「目の前で助けを求める子どもを救いたいということです。冷たい台の上に空さんがいることがないように……。あなた方から空さんを救います」

「やれるものならやってみろ!俺は空手と柔道の黒帯だぞ!」

男性が蘭に掴みかかろうとする。それを蘭は避けて男性に拳を入れようとした。その手はあっさりと止められる。しかし、蘭は動じることなく男性を蹴り上げ、男性が怯んだ隙に掌底打ちを連続でぶつけた。

「うっ……ううっ……」

男性がよろけたところで、蘭は男性を掴んで地面に思い切り叩き付ける。そして表情を変えぬまま言った。

「私はアメリカで軍隊と同じ訓練を受けました。あなたのような人に簡単に負けるほど弱くはありません」
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