翠玉の監察医 消されるSOS
二 救えない命
「これより、解剖を始めます」

世界法医学研究所の所長、紺野碧子(こんのあおこ)がそう言い、蘭とドイツ人監察医のゼルダ・ゾルヴィッグはメスを手にした。

ここ数日、世界法医学研究所には二十歳になっていない未成年の遺体が運ばれてくることが多い。今日はまだ八歳になったばかりの男の子と中学二年生の女の子が運ばれてきた。蘭とゼルダは男の子の解剖をしている。

「向こうはアーサーとマルティンがうまくやってくれるわよね」

ゼルダがそう言い、男の子の体を観察し始める。蘭も「ええ」と頷き、アーサーとスウェーデン人監察医であるマルティン・スカルスガルドの顔を一瞬浮かべてから目の前のご遺体に集中し始めた。

ご遺体に目立った外傷はない。学校の帰りに突然倒れてそのまま亡くなったそうだ。

小さな体にメスが入れられ、肋骨が外される。無表情な蘭に対し、ゼルダは小さく「ごめんね」と呟いていた。

内臓を観察し、心臓内の血液を取り出す。そして心臓内にある脈や血管を観察すると、蘭の目が鋭くなった。

「ゼルダ、この心臓の冠動脈の内側は狭いと思いませんか?」
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