トラップ教室
「あぁ……。でも、俺はどんなことでもネタにできるから」


太一はそう言うとニッと白い歯をのぞかせた。


「ネタ? それってさっきのヤツらが言ってた小説のことか?」


質問すると太一は少しくすぐったそうにほほ笑み、頷いた。


「そうだよ。イジメられたら、それは俺のネタになる。いいことも悪いことも全部小説にできるんだよ」


太一の目は輝いていた。


「本当に小説が好きなんだな」


「うん。将来は小説家になるんだ。だから今のうちに色々と経験を積んだ方がいいんだ。プロになった後にイジメなんかに遭うと、創作に集中できなくなっちゃうからさ」


お前は一体いつまでイジメられ続けるつもりでいたんだと思ったが、言わないでおいた。


太一の目はまだキラキラと輝いていたからだ。


「そうか。夢があるっていうのはいいな」


「大祐はないの?」


聞かれて俺は首をかしげた。


勉強は苦手だった。


だけど体力には自信があるし、足にも自信がある。


でもそれは人よりちょっとだけ上手くできるというだけで、夢という大それたものではない。


「特にないかもな」
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