トラップ教室
ハッとして立ちあがり、ミチルに駆け寄った。


「響は?」


「響はいなかった。声を録音したテープが流れてるだけだった」


早口で説明をすると、ミチルは泣きそうな表情になった。


「そんな……」


「きっと、響はどこか別の場所にいるんだよ」


それがどこなのかわからないし、生きているのか死んでいるのかも定かじゃないけれど……。


「ミチル、立てる? とにかくここから出なきゃ」


そう言って肩を貸して立たせようとするけれど、ミチルは体に力が入らず、ズルズルと座り込んでしまった。


「ねぇミチル、どうしたっていうの?」


いくら悲しみや苦しみにさいなまれても、ここを出なければいけないのだ。


あたし自身、今その前向きな気持ちだけで立っているも同然だった。


それなのにミチルは一体どうしたのだろう。


ミチルはうつむき、左右に力なく首を振る。


その様子を見て、あたしはとにかくドアへと走った。
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