トラップ教室
響くらいなんでも上手にこなすやつに、悩みなんていないと思っていたから。


「勉強嫌いなのか?」


「うん。でも親がいい大学に行けってうるさいんだ」


「いい大学って、たとえば?」


響が全国的に有名な大学の名前を列挙していく。


それを聞きながら俺は呆れて口をポカンと開けてしまっていた。


マヌケな顔だったに違いない。


「それはなんていうか……大変だな」


特に大きな期待を背負うこともなく普通の学校生活を送っている俺には、言えることなんてほとんどなかった。


「そうなんだよ。だからさ、今度歴史の勉強を教えてほしいんだ。頼むよ」


響はそう言って両手を合わせてお願いしてきた。


学年1位2位を争う秀才が。


女子たちに1番人気のイケメンが。


スポーツもそつなくこなして、人気を集めているこいつが。


なんでもないような顔で俺に頭を下げてくるものだから、不意に肩の力が抜けてしまった。
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