リアル彼氏
お母さんの右手はすでに玄関の鍵を開けていたのだ。


「美弥、どうしたの?」


驚いた顔をするお母さん。


その横で、ゆっくりと玄関が開いていく。


玄関を閉めようと手を伸ばしても、届くはずがなかった。


あたしとドアの間にはまだ距離がある。


玄関は静かに開き、そして弘志君が姿を見せた。


「こんにちは」


お母さんへ向けて笑顔で挨拶する弘志君。


あたしは愕然として立ちすくんでしまった。


「あら、美弥の友達?」


お母さんは見た目のいい弘志君を見て、嬉しそうだ。


「はい。同じクラスの飯野弘志といいます」


弘志君は爽やかな笑顔を浮かべてお母さんに会釈している。


その笑顔にお母さんが騙されていくのがわかった。


「美弥と約束してたのかしら?」


振り向いてそう聞いてくるお母さん。


あたしは咄嗟に左右に首を振ろうと思った。


でも、できなかった。
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