リアル彼氏
弘志君の鋭い視線があたしの行動を制御していた。


背中に無数の汗の筋が落ちていくのを感じる。


それでも自分にはなにもできない。


「そうです」


お母さんの問いかけに返事をしたのは弘志君だった。


「これから図書館で勉強をする予定なんです」


弘志君は慣れた様子で嘘を重ねる。


「あらそうだったの。それなら早く準備をしていらっしゃい」


呆然と立ち尽くしているあたしにお母さんが言う。


違うよお母さん。


あたし約束なんてしてない。


弘志君に家を教えてもいない!


そう言いたくて、必死で目で合図をする。


しかし、お母さんは弘志君との会話を楽しんでいて、あたしには目もくれない。


どうしよう……。


ここで断れば弘志君はなにをしてくるかわからない。


暴力だって、平気でしてくるはずだ。


あたしはゴクリと唾を飲み込んで自室へと引き返した。
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