副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~
「…総務の小林さん? だったかな? 」
「はい、覚えてくれていたのですか? 嬉しいです」
「まぁ社員の事は、一応覚えているが」
「そうなんですね」
気持ち悪い笑顔を浮かべて、宇宙に寄ってくる有香。
「副社長、今回は大変でしたね。奥様、重体だそうで」
奥さん? こいつも、重乃と俺が結婚したと真に受けているのか?
そう思った宇宙は小さくため息をついた。
「もしかして、これからん病院にいかれるのですか? 」
何故俺が病院に行くんだ?
呆れた奴だ。…
「あ! そう言えば、知っていますか? 副社長の奥さんを呼びだした人がいる事」
呼び出した?
呼び出したのは重乃だが?
何も答えない宇宙に、有香は話を続けた。
「奥さんの事を呼び出したのは、北里さんですよ。あの人、社長の秘書やっているじゃないですか? それで、ハナタカになっているようですよ。奥さんに「あんたの旦那を奪ってやる! 」って言ったそうです。どこで知ったか知りませんが、奥さんに執拗に電話をかけてきたそうです。昨日も、北里さんに呼び出されたって話していましたよ」
「…話はそれだけ? 」
「え? 」
「悪いが、俺は興味が無い。そんな話しは、俺にはしないでくれ」
「そんな、だって副社長の奥さんですよ。心配じゃないんですか? 昨日の事故も、誰かが突き落としたって話じゃないですか! 」
そんな話しになっていたいか?
警察は確か、重乃が足を踏み外して転落した可能性が高いと言っていたが。
特にニュースにも上がっていないし、社員の間でもただの事故としか言われていなかった。
宇宙は有香から怪しい感じを受けた。
「副社長。ショックを受けているのですね? 奥さんが、急にあんな状態になって…」
目を潤ませて見つめてきた有香に、危険を感じた宇宙は、クルっと背を向けた。
「悪いが、先を急ぐから失礼する」
そのまま歩き出した宇宙。
目を潤ませていた有香は、ニヤッと笑いを浮かべた。
「なーんだ。夫婦仲悪いって噂、本当だったんだ。私にも、十分チャンスはあるって事ね? 」
まるで悪魔のような笑みを浮かべ、有香は去り行く宇宙を見ていた。