副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~
妄想と現実
しばらくギュッと涼花を抱きしめたまま、じっとしていた宇宙。
涼花もまた同じように宇宙の胸の中で静かにしていた。
「あの…」
静かにしていた涼花が、そっと宇宙を見上げた。
「今は何も言わなくていいから…」
「いえ…ちゃんと話したいので…」
ん? と、宇宙は涼花を見た。
「ごめんなさい。…私…実は記憶障害でして…」
「記憶障害? 」
「はい…。5年前に大怪我をして…全部忘れてしまいました。名前も、自分が今まで何をして来たのかも…。時間が経過して、ぼんやりと思いだす事もあり自分の名前と両親の事は思い出してきたのですが。それでも忘れてしまう事も多くて…離婚用紙が送られてきた事で。結婚していたことを知り、自分の顔が醜くてそれで結婚相手に迷惑をかけていた事を知りました。…なので…先ほどお話したことも…あまり覚えていません…」
「そうか…」
宇宙はそっと、涼花の頭を優しく撫でた。
「考えなくていいから、あんたの今の本当の気持ちを聞かせてくれ」
「私の本当の気持ち、ですか? 」
「ああ。頭で考える事じゃなく、ハートで感じている気持ちをそのまま教えてほしい」
そっと涼花を見つめた宇宙は、いつもより優しく微笑んだ。
「俺の気持ちは、きっと十分に伝わっていると思うけど? 」
じっと見つめてくる宇宙の瞳は、綺麗な赤い瞳をしている…。
見ているだけで吸い込まれそうで…頭の思考よりも感じるのはハートの感覚だけ…。
「…好きです…貴方の事が…」
遠い目をして答えた涼花。
だが目の焦点は合っていて、しっかりと宇宙を見ていた。