副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~
「お父さん、お母さん。…私、本当に宗田さんと結婚していたんだね。…宗田さんも、お父さんとお母さんの事を殺す手伝いをしたんだって、思っていたけど違っていたわ。離婚用紙も、彼が送ったものではないって…。全部…あの女達がやった事だったのね…」
ギュッと拳を握りしめた涼花。
「…みんな顔で判断する…。綺麗な顔なら、無条件で優しくされ特別扱いされる。でも、醜い顔なら容赦なく酷い扱いをされる。…どうして、外見だけでそんな違いがあるのか。私は今でも、理解できないけど…。私は、顔が綺麗でも醜くくても…酷い事されたけどね…」
フッとため息をついた涼花。
「あの時…私なんて死んでいれば良かったんだよね…。そうしたら、お父さんもお母さんも、もっと長生きできたのに…」
スッと…涼花の頬に涙が伝った。
ポン…
優しく涼花の肩に手が置かれた。
え? と思って涼花が振り向くと。
そこにはいる筈がない宇宙がいた。
どうしてここにいるの? 今日は残業で遅いって言っていたじゃない?
それに…どうして?
言いたい言葉も出ないくらい驚いている涼花に、宇宙はそっと微笑んだ。
「黙って着いてきて、ごめん。残業するつもりだったんだけど、何となく気が乗らなくなったんだ。降りてきたら、あんたが駅の方に歩いてゆくのが見えた。何となく気になって着いてきて。バスに乗ったから、俺もそのバスに乗って…」
涼花は眼の涙をいっぱいためて、宇宙を見ていた…。
「今日は…もしかして、ご両親の命日なのか? 」
そう尋ねられ、涼花はゆっくりと頷いた。
頷いて視線を落とした涼花の頬に、また涙が伝った…。
「そうだったのか…」
そっと、宇宙は涼花を抱きしめて。
抱きしめた涼花が、前より痩せているのを感じて宇宙の胸にズキンと痛みが走った…。
その痛みはきっと、涼花が受けた痛みだと宇宙は感じた。
「何もできなくてごめん。…過去は取り戻せないが、この先の未来はいくらでも変えられるから。…俺、あんたの事を世界で一番の幸せ者にするから。だから、もう一人で泣かないって約束してくれ。泣きたいときは、俺の胸で泣けばいい。いつでも受け止めるから…」
「…ずっと…産まれて来なければ良かったんだって思い続けていました。…みんな、人を外見で判断して酷い事ばかりするから…。私なんか、産まれて来なければ良かったんだってずっと思って生きてきました…」
「何言っているんだ。あんたが産まれて来なかったら、俺、こんなに人を愛せないままだったよ」
「…私…誰とも関りたくなくて、整形していました。…わざと酷い顔に整形していました…」
泣きながら震えている涼花を、宇宙はそっと慰めた…。