副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~

 そのままレジデンスに戻った宇宙と涼花。

 タクシーの中では特に会話を交わす事がなく、宇宙が涼花の手をギュッと握っていてくれた。
 涼花は何かを思い詰めているような目をして、ずっと黙ったままだった。


 
 軽く夕食を済ませて、お風呂を済ませた宇宙と涼花。

 
 涼花は鞄の中から手帳を取り出して、中にある2枚の写真を宇宙に見せた。

 2枚の写真。
 それは今の涼花の写真と、世間で言う不細工の顔をした涼花の写真。

「…ごめんなさい、記憶が曖昧な部分もあるので。詳しい事を思いだせない部分もありますが、ちゃんとお話しします」
「ああ。ゆっくりでいいから、話せるころまで話してくれればいい」

 呼吸を整えて、涼花は話し始めた…。


「先ず、この写真は。私の、本当の顔です。つまり、今の顔が私の本当の顔になります」
「今の顔が…。納得できるよ。…ずっと、あんたの後ろに見えていたから。今の顔が」

「見えていたのですか? 」
「俺、ちょっと不思議な能力があるみたいでさ。これは、家系の遺伝なんだけど。人に見えない物が見えるんだ」

 人に見えない物が見える…。
 確かに宇宙の言っている事は、どこか先を見通しているような事を言う時がある。
 
(俺は本当の、あんたしか見ていない)

 そう言っていた。
 その言葉が本当だから…あんな顔をしていても結婚してくれたのかもしれない。
 涼花はそう思った。

「…こちらの写真は。…整形した顔です…」

 不細工な方をさして涼花が言った。

「こんなに綺麗な顔をしているのに、なんでわざわざ醜い顔にしなくてはならなかったんだ? 」
「はい…」

 ギュッと拳を握りしめた涼花が、ちょっと震えていた…。

「私…中学生の時、ストーカーに狙われた事がありました。…2週間ほど監禁され、親戚の叔父さんが助け出してくれたのですが。相手は相当しつこくて、逮捕されても、刑期を終えるとまた着きまとってきていたのです…。私が高校生の時までそれが続いて。…犯人が3度目に逮捕された時、これ以上怖い思いはしたくないと思い。高校を卒業したと同時に整形しました。…顔を変えれば、もう着きまとわれる事もない…そう思って整形しました。…」

 恐怖が蘇って来たのか、涼花は肩を抱いて震え始めた。
 
 そんな涼花を、宇宙はそっと抱きしめた。
< 61 / 94 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop