副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~
そのままレジデンスに戻った宇宙と涼花。
タクシーの中では特に会話を交わす事がなく、宇宙が涼花の手をギュッと握っていてくれた。
涼花は何かを思い詰めているような目をして、ずっと黙ったままだった。
軽く夕食を済ませて、お風呂を済ませた宇宙と涼花。
涼花は鞄の中から手帳を取り出して、中にある2枚の写真を宇宙に見せた。
2枚の写真。
それは今の涼花の写真と、世間で言う不細工の顔をした涼花の写真。
「…ごめんなさい、記憶が曖昧な部分もあるので。詳しい事を思いだせない部分もありますが、ちゃんとお話しします」
「ああ。ゆっくりでいいから、話せるころまで話してくれればいい」
呼吸を整えて、涼花は話し始めた…。
「先ず、この写真は。私の、本当の顔です。つまり、今の顔が私の本当の顔になります」
「今の顔が…。納得できるよ。…ずっと、あんたの後ろに見えていたから。今の顔が」
「見えていたのですか? 」
「俺、ちょっと不思議な能力があるみたいでさ。これは、家系の遺伝なんだけど。人に見えない物が見えるんだ」
人に見えない物が見える…。
確かに宇宙の言っている事は、どこか先を見通しているような事を言う時がある。
(俺は本当の、あんたしか見ていない)
そう言っていた。
その言葉が本当だから…あんな顔をしていても結婚してくれたのかもしれない。
涼花はそう思った。
「…こちらの写真は。…整形した顔です…」
不細工な方をさして涼花が言った。
「こんなに綺麗な顔をしているのに、なんでわざわざ醜い顔にしなくてはならなかったんだ? 」
「はい…」
ギュッと拳を握りしめた涼花が、ちょっと震えていた…。
「私…中学生の時、ストーカーに狙われた事がありました。…2週間ほど監禁され、親戚の叔父さんが助け出してくれたのですが。相手は相当しつこくて、逮捕されても、刑期を終えるとまた着きまとってきていたのです…。私が高校生の時までそれが続いて。…犯人が3度目に逮捕された時、これ以上怖い思いはしたくないと思い。高校を卒業したと同時に整形しました。…顔を変えれば、もう着きまとわれる事もない…そう思って整形しました。…」
恐怖が蘇って来たのか、涼花は肩を抱いて震え始めた。
そんな涼花を、宇宙はそっと抱きしめた。