副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~

「…もういいよ、無理しなくて。…分かったから…」
「いいえ…ちゃんと話しておかなくては…。だって…」

 泣きそうな目で、涼花は宇宙を見つめた…。

「貴方が、こんなに私を想ってくれているのに…。隠し事をしているなんて、できません…。隠し事をしているから、お互いに壁が出来てしまって。本音が言えなくなってしまうのだと良く判りましたから…」
「…そうか…」


 そっと涼花の頭を優しく撫でた宇宙…。


「顔を変えてから…私の人生は、大きく変わりました。…ストーカーから解放され、何も怯える事がない日々を手に入れて…。快適な日々が過ごせると思いました。…でも…逆に顔の事で非難されることが増え、中傷される日々が始まったのは言うまでもありません。それでも、あんなに怯える日々よりはよほどいいと思っていました。…顔のせいで、恋もできなくても…結婚できなくても…それでもいいと思っていたのです…」
「そうだったのか…。だから、どこか悲しい目をしていたんだな…」

「ストーカーの犯人は、私が整形してから自殺したと聞きました。元々、自殺行為を繰り返していた人だったようで。ビルから飛び降りて即死だったと聞いています。…それでも、顔を元に戻す事は怖くてできませんでした。…」
「そんな怖い思いを抱えていたのに、俺と結婚してくれたんだな。…有難う…」

 ちょっと赤くなった涼花…。
 小さく首を振って、一息つくとそっと宇宙を見つめた…。

「…夢を見ているのだと、ずっと思っていました。…あんな顔の私と結婚してくれるなんて…。何度も好きだと言ってくれるし…。強引でも、連れて来られたことは…本心では嬉しかったのですが…。どうしても引け目を感じて、自分を責めずにはいっれませんでした…」

 宇宙はそっと頷いた。
 もういい、分かったよと…。

「でも良かった。元の顔に戻ることが出来て」
「はい…。助けてくれた叔父が、元に戻してくれたようなのです。…転落した日…顔も酷くなってしまっていたようなので…」

「分かったよ。…もう、何も気にすることはないから。本当の、あんたに戻ればいい。俺は、どんなあんたでも受け止めるから」

 涼花は小さく頷いた。
 まだハッキリと心が許せたわけではないが、隠していたことを話したことで心が軽くなったようだ。

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