副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~
屋上で一人でお昼休憩をとっている涼花。
今日は静かな場所で一人で食べたくて、屋上へやって来た。
軽くおにぎりを食べている涼花。
カチャッと。
屋上のドアが開く音がしてハッとした涼花。
「北里さん、こんな所にいたのですか? 」
やって来たのは郷だった。
「…郷さん…どうして? 」
驚いている涼花の傍に、ニコニコして歩み寄ってきた郷は、そっと隣りに座った。
「北里さんがショックを受けているのではないかと、来てみたんです。カフェテリアにいなかったので、屋上だと思って」
「…一人になりたくて…」
「ショックですよね。同時に2人も亡くなったのですから。でも、北里さんが気に病む事はありませんよ。時間が解決してくれますから」
「はい…」
小さく答えた涼花の手に、郷はそっと手を重ねた。
ハッと驚いて、涼花は手をどけようとしたが、ギュッと握られてしまい離せなかった。
「逃げないで下さいよ…」
そう言った郷は、メガネの奥でちょっと真剣な目をしていた…。
その目を見ると涼花はドキッと胸が鳴ったのを感じた。
「ねぇ…涼花さん…」
下の名前で呼んでくる郷に、涼花は戸惑いの表情を浮かべた。
なんで突然名前で呼ぶの?
それに…この人は美也さんと付き合っている人何に…。
どうして?
「忘れちゃった? ずっと、この5年の間。涼花さんを見ていたのは、僕ですよ」
「え? 」
ニコっと笑った郷。
「仕方ないですよね。忘れてしまう病気なんですから」
どうして知っているの?
そう思い郷を見ている涼花…。
郷は余裕の笑みを浮かべたまま涼花を見ている…。
「あの階段で倒れている涼花さんを、一番初めに見つけたのは僕です。そして、涼花さんの叔父さん…。亡くなった、東条さんと僕は親友でしたから…」
「親友? 」
「そうですよ。東条忠臣(とうじょう・ただおみ)さんは、僕の20年以来の親友です。そして…亡くなった僕の妹の事も、看取ってくれた人ですから…」
「妹さん? 」
「はい…篠山未菜(しのやま・みな)。…もう7年経過しておりますが、未菜もあの階段で亡くなっておりますので」
あの階段で…。
驚いて茫然とした涼花の隙をついて、郷はギュッと抱きしめた。