副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~
ちょっと茫然として社長室に戻ってきた涼花。
「北里さん。ちょっと話したいことがあるんだ」
「え? なんですか? 」
空斗はソファに座るように涼花を促した。
ソファーに座ると、空斗はとても優しい眼差しで涼花を見つめた…。
「…やっぱり、北里さんは…風香ちゃんだったんだね? 」
あ…
もしかして、さっきの話し聞かれてしまった?
ちょっとびっくりした目をした涼花を見て、空斗はニコっと笑った。
「初めから何となく気づいていたんだよ。でも、とても悲しい目をしていたから。ちょっと様子を見ていたんだ。最近、ちょっとずつ明るい表情になってきたら。少しずつ聞きたいと思っていたんだが」
「先ほどの話し、聞かれたのですか? 」
「ああ、ごめんね。屋上は、私の休息の場所でもあるんだ。誰も来ないから、一人になってたまにはのんびりと、頭を空っぽにしたいときがあるから。今日は、ずっと忙しくて頭空っぽにしたくて屋上にいたんだが。偶然にも、2人の話が聞こえてしまってね」
「そうだったのですか…」
「北里さん…。いや、風香ちゃん。…私も妻も、今でも風香ちゃんの事を家族だと思っている。戻ってこれなかったのは、重乃さんが家にいたからだろう? 」
ギュッと口元を引き締め、涼花が俯いた。
そうではなく忘れていたのが、一番の原因だから。
ずっと離婚されたと思い込んでいて、その事も曖昧で…自分を責めていたから…。
「名前を変えているくらいだから、大変なことがあったのは察している。でもね、風香ちゃんは今でも宇宙の奥さんのままだから。落ち着いたら戻ってきてくれるか? 」
尋ねられ涼花は答えに迷った。
もう二度と辛い思いはしたくない…
こんな自分がいて、宇宙に嫌な思いをさせる事も嫌だ…。
「答えは焦らなくていいよ。風香ちゃんが使っていた部屋は、そのままにしてあるから。いつでも戻ってきていいよ」
涼花は何も答えることが出来なかった。
今はYESともNOとも言えない…。
あと一人残っているから…。