副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~
目を閉じると見えてくる。
5年前に涼花が小さくなって怯えていた姿が。
だがその時。
宇宙も急にいなくなった涼花(風香)にショックを受けて、どうしたいいのか分からなくなっていた。
やっと気持ちが通じ合えたと思っていた時だった故に…。
本人限定で送られてきた離婚用紙にも、ただ戸惑うばかりで…。
でも、サインされている離婚用紙を見ていると違和感しか感じられなくて。
宇宙はそのまま離婚用紙を破り捨てた。
行方が分からないが、きっと探し出す。
自分の力で探し出すから…そう思って、周りがないを言おうと黙ったまま宇宙は涼花(風香)を探し続けていたのだ。
「あの…」
そっと目を開けて、宇宙は秀臣を見つめた…。
「俺、離婚はしていませんから。…」
「ああ、涼花に聞いているよ。離婚用紙は、捨てたと」
「はい。…俺は、そんな中途半端な気持ちで結婚したわけではありません。…」
「分かっているよ。涼花の改名後に、戸籍を観覧したらまだそのままだったからね。でも、涼花には話さなかったんだ。記憶が曖昧で、混乱するから」
「そうだったのですね…」
「涼花が自分から宗田ホールディングに就職すると言い出して。…私は止めたかったんだが、もしかしたらこれも運命なのかもしれないと思って見守る事にしたんだ」
「どうして、我が社に就職する事になったんですか? 」
秀臣はチラッと涼花を見た。
黙ったまま俯いている涼花を見て、秀臣は一息ついた。
「涼花の両親が亡くなったとこは知っているね? 」
「はい、聞いています」
「涼花の両親は、ひき逃げされたんだ。それも故意的な事故だったんだ」
ひき逃げと聞くと、ズキンと宇宙にも痛みが伝わってきた。
それは涼花からもずっと感じていた痛みと同じだった。