エチュード〜さよなら、青い鳥〜
その時、通用口からひょっこり姿を現したのは、丹下広宗社長だった。


「あ、あなたは、アリオン・エンタープライズの…」

陽菜は、顔を真っ赤にしてさっと四辻から離れた。


「俺はさー、君みたいな美人で肉食系女子は嫌いじゃないよ。恋愛と結婚を割り切って楽しめるタイプだよね。
でもね、四辻くんはダメ。真面目で、一途すぎて君とは合わないよ。だから、諦めて」

「あ、えっと、違うんです、あ、し、失礼します」

陽菜はしどろもどろになって、慌てて逃げるように通用口に飛び込んで行った。


「アハハ、三股かけてた割に度胸が足りないなぁ。だから何?って開き直れるくらい堂々としてたら。
秘書課でもずっとやっていけただろうになぁ」


社長の言葉に、四辻はゾクリとする。


丹下社長は、いつも笑顔で明るい人だ。誰にでも気さくで、社員の言葉もよく聞いて柔軟に対応してくれるから慕われている。

だが、それだけで社長が務まるわけがない。

人を、仕事を見極め、時にバッサリと切ることもある。カリスマ社長は、頑張る人間に対してはどこまでも寄り添ってくれるが、そうでない相手にはこの上なく冷酷になる。


人事労務管理の仕事をして、気づいた社長のもう一つの顔が、今、チラリと見えた。


「四辻くんお待たせ。さ、行こうか」


そこへ、会長がやってくる。


陽菜のことは、頭の向こうに追いやって。
二人を乗せて、四辻は車を出した。






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