エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「初音、悪いけどグランプリはもらったわ」
控え室。演奏を終えた萌が、わざわざ初音の元へやってきて言った。
「ここ最近で一番の出来だったのよ」
本選に残ったのはわずかに五人。
梅田は二次予選を通過出来なかった。そうなると、グランプリ候補はやはり実績のある萌だと周囲は思っていた。他の四人は、初音も含めあまりコンクールの実績がないメンツだった。
しかも、萌の選曲は奇しくも初音と同じプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番。自信たっぷりに初音を見下ろす萌が圧力をかけてくる。
スタッフが、初音の出番を知らせた。
『梅田じゃなくてあなたがここにいられるのは、あなたが“丹下初音”だから。力の違いを思い知りなさい』
立ち上がった初音の耳元で、萌はそう言って立ち去っていった。
きっとそれが萌の本性。友達の顔して、いつも初音を見下していた。
ここまで、ハッキリ言われたことは初めてだった。初音が予選通過して仲の良い梅田が落選したことが、許せなかったのだろう。