エチュード〜さよなら、青い鳥〜
最高の演奏が出来た。



コンクールに出るつもりもないのに、ピアノ協奏曲をやろうと言った先生に反抗した日々を思い出す。
しかも、超絶技巧のプロコフィエフの第3番。先生を何度も恨んだ。それがまさか、オーケストラと一緒にこんな大きな舞台で弾けるなんて。
楽しかった。最高に幸せな気分だ。



鳴り止まない拍手。
指揮者と握手し、オーケストラのコンサートマスターと握手し、感謝を込めてオーケストラに深々と頭を下げた。オーケストラの面々も笑顔で拍手してくれる。

それから舞台に体を向けた。
来賓席に、一条拓人とその家族が見えた。初音の祖父と両親の姿も。満面の笑みで拍手をしてくれている。
だが、来賓席周辺に四辻の姿がない。


初音は客席を見渡した。一般席で一際大きな拍手をしてくれる四辻の姿にホッとする。
真面目な人だ。来賓席は断ったのだろう。


初音は、満足感でいっぱいになった。
結果なんてどうでもいい。みんなの笑顔が最高のご褒美だ。

幸せな時間を一緒に共有できた。
それを実感できたことが嬉しくて。

万巻の思いを込めて客席に向かって深くお辞儀をした。



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