エチュード〜さよなら、青い鳥〜

その後は何人もの人がピアノを見たり、少し触れたりするものの、演奏する人は現れない。
初音と四辻はオープンカフェのテーブルでコーヒーを飲みながら、会話もせずにピアノを見つめていた。

オープンカフェには初音たちと、その隣の席に老夫婦が一組だけ。ピアノの音が無ければ、静かな空間だ。


「明るい曲が聴きたいな。
例えば、ショパンの『蝶々のエチュード』みたいな曲」


四辻がチラリと初音を見る。
初音は、辺りを見渡す。ピアノを弾きそうな人は現れない。
『蝶々のエチュード』は、今日、四辻が丹下家に初音を迎えに来てくれるまで指の練習で弾いていた曲だ。


「迎えに来てくれた時、すぐに手を止めたのにあれが『蝶々』だって気付いてたんだ」

「迎えに行ったあのタイミングでリクエストしても、弾いてくれなかっただろ?早く出かけたいって顔に書いてあったし。
ちゃんと最初から聴きたいな」


甘く、優しく微笑んで初音をピアノへと誘う。
四辻のこんなところが、好きだ。
嘘のつけない真面目なところに安心する。
一緒にいて、肩に力を入れず自然体でいられる。初音にとって、四辻は大切な存在だ。


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