エチュード〜さよなら、青い鳥〜
もう会わない。
初音が発したその一言が、四辻の最後の迷いを完全に吹き飛ばした。
「初音」
「え…?」
初めて、四辻が初音の名前を呼んだ。驚いて初音は顔を上げて四辻を見た。
四辻は、素晴らしい演奏を聴いた時のような、優しい表情を浮かべていた。
「初音は誰より強くて、誇り高い人だ。
でも、一方で心ない言葉で傷つけられ苦しんでいる。その弱い姿を俺だけには見せて構わないよ。
だから。
だから、次からのコンクールは、『四辻初音』でエントリーしないか?」
四辻の言葉が、初音の思考回路の上を滑っていく。
理解が追いつかない。
黙ったまま固まる初音を、四辻は優しくふわりと後ろから抱きしめた。
「周りが何を言っても気にしない。言いたい奴には言わせておく。俺も、そうする。
君と一緒に過ごす、最高の音楽に満ちた時間を思えば、周囲の雑音なんて取るに足りないものだ」
初音の背中に当たる四辻の鼓動が早い。
「四辻さんの心臓の音、ベートーヴェンのヴァルトシュタインみたい」
初音の白く長い指が、ベートーヴェンのピアノソナタの冒頭を奏でる。打楽器のような和音の連打は、四辻の鼓動と重なる。音の粒がきらめくように響く。先ほどの苦しみに満ちた『マゼッパ』とは、まるで違う、希望と喜びに満ちた音。
初音が発したその一言が、四辻の最後の迷いを完全に吹き飛ばした。
「初音」
「え…?」
初めて、四辻が初音の名前を呼んだ。驚いて初音は顔を上げて四辻を見た。
四辻は、素晴らしい演奏を聴いた時のような、優しい表情を浮かべていた。
「初音は誰より強くて、誇り高い人だ。
でも、一方で心ない言葉で傷つけられ苦しんでいる。その弱い姿を俺だけには見せて構わないよ。
だから。
だから、次からのコンクールは、『四辻初音』でエントリーしないか?」
四辻の言葉が、初音の思考回路の上を滑っていく。
理解が追いつかない。
黙ったまま固まる初音を、四辻は優しくふわりと後ろから抱きしめた。
「周りが何を言っても気にしない。言いたい奴には言わせておく。俺も、そうする。
君と一緒に過ごす、最高の音楽に満ちた時間を思えば、周囲の雑音なんて取るに足りないものだ」
初音の背中に当たる四辻の鼓動が早い。
「四辻さんの心臓の音、ベートーヴェンのヴァルトシュタインみたい」
初音の白く長い指が、ベートーヴェンのピアノソナタの冒頭を奏でる。打楽器のような和音の連打は、四辻の鼓動と重なる。音の粒がきらめくように響く。先ほどの苦しみに満ちた『マゼッパ』とは、まるで違う、希望と喜びに満ちた音。