エチュード〜さよなら、青い鳥〜
かなり興奮状態の彼の勢いに、初音はやや引いてしまう。


「そう、ですか。あ、ありがとうございます。
ご期待に応えられて良かったです」

「本当に、すばらしかった。
今まで職業柄、嫌というほどショパンを聴いてきましたが、あなたの演奏は、決してプロに引けを取らない」

「職業柄?」

「あぁ、失礼。私はこういうものです」

男性が差し出した名刺に視線を落として、初音は絶句する。

[株式会社アリオン
営業企画部 四辻涼(よつじ りょう)]

よりにもよって、『アリオン』の社員だったとは。しかも、営業企画部はエリート集団。見た目の雰囲気だけじゃなく、本物のエリートだった。

彼は初音のことに気づいていないようだ。

たぶん、名乗らなければ気づかれない。

初音が創業者一族にして『アリオン』会長の孫、丹下初音(たんげ はつね)だと。


「良ければ、お名前を聞かせて頂けますか?」

初音は、首を横に振った。

「私は、ただピアノが好きな普通の学生です。
褒めてくださって、ありがとうございました」


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