エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「…本当に、音楽が好きなのね」

「聴いてみるかい?」

オーディオに向かい合うように置かれたソファに座って、初音は大きくうなづいた。
四辻はその隣に座って、リモコンのボタンを押した。


穏やかにクラリネットの音がする。
マーシャ・アルジェリーナのピアノの音を予想していた初音は、肩透かしを食らった気分だ。
クラリネットの後は優しい弦楽器。これは、過日のコンサートの本選で初音が演奏した、プロコフィエフのピアノ協奏曲 第3番だ。

「…あっ!」

急にテンポアップして、高揚感が高まり、満を持してピアノが軽やかにやってくる。その音を聴いた途端、初音は気づいた。

「マーシャ・アルジェリーナじゃない。これ、私…っ!」

驚いてリモコンに手を伸ばそうとした腕を四辻に掴まれた。

「今、俺が最高だと思う音楽はこれ。ピアノだけならリクエストしたら弾いてもらえるけど、協奏曲はオーケストラがいないとできないからね」
「やだ、恥ずかしい」

四辻の腕を振り払おうとするが、逆に抱きしめられてしまった。

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