エチュード〜さよなら、青い鳥〜
陽菜はふと、自分の指の爪を見た。
綺麗に仕上げてもらったネイルが、少し剥がれている。そういえば、今日、重い段ボールを運んだ時に引っかけた気がしていた。

今まで、秘書課にいた時は、あんな力仕事とは縁がなかった。


ーーどうして?どうして私が秘書課を追い出されなきゃならないの?


陽菜より長く勤めている歳上のお局様もいる。
陽菜より仕事の出来ない人だっている。
陽菜より自分磨きを怠って干物のような人も。
なのに、いきなりの辞令だった。


どうして?と自問しているが、答えは明確だ。


絶対に、会長の息子、アリオン・エンタープライズの丹下広宗社長が絡んでいる。

四辻に復縁を求めた時、運悪く話を聞かれてしまった。あの時にはもう、四辻は社長令嬢の結婚相手として扱われていたのだろう。きっと娘の為に、四辻の身辺整理に該当する、と思われてしまったのだ。


秘書課にいることは、陽菜の自尊心を大いに満たしてくれていた。いつも、重役をはじめとした男性陣にチヤホヤされた。陽菜自身、秘書という仕事にプライドを持って、やり甲斐を感じていた。
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