エチュード〜さよなら、青い鳥〜

奇跡と偶然


初音は大学内のレッスンルームで、時計を見上げた。杉田先生が現れない。


「俺のレッスンの最中に呼び出されたまま、帰ってこないんだよ」

初音の前にレッスンしていた大輔が首を傾げる。

「中途半端でさ、俺も帰るに帰れなくて」
「呼び出されたまま、大輔や私のこと、忘れちゃったのかな」

杉田先生は、どちらかといえば時間にルーズだ。レッスンが時間通りに始まらないこともザラにある。だから、大輔も初音も慣れていた。



「大輔は卒業したらどうするの?」

最近、色々と立て込んでいてあまり大輔と話をしていなかった。初音は、確認するように大輔に尋ねた。

「俺は伴奏者としてやっていくんだ。親父がプロのミュージシャンだから、その手伝いもする。いつかは、有名な歌手のサポートミュージシャンとして全国ツアーとか回りたいけどねー」

「大輔なら大丈夫!応援するよ」


まだ、この先どうなるかわからない初音と違い、大輔は音楽で生計を立てていこうとしている。素直にすごいと思う。


< 156 / 324 >

この作品をシェア

pagetop