エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「ありがとうございます、教授。
正直、私、ドイツに来てから大学とマーシャの所と学生寮の往復しかしていなくて、ホテルなどもよく知らなかったので、助かりました」
スーツケース一つで転がり込んだクラウゼ教授の自宅は、防音設備の整ったスタジオまであり音楽家なら誰もが理想とするような家だった。
初音はリビングで紅茶をいただきながら、雨が止むまでの住まいが見つかったことにホッとする。
「あら、そうだったの⁈なんて、勿体無いこと!
ドイツには見るべき観光地も、芸術もたくさんあるのよ?ハツネは若いんだから、それらにどんどん触れなくてはね」
クラウゼ教授に言われて、初音は肩をすくめる。
たった四か月だからと、ピアノのことばかり考えていた。ドイツを楽しむことなど、初音には考える余裕もなかった。
「ルームメイトのオルガは恋を楽しんでいるし、他の留学生も『マーシャの教え子』だって、ハツネとは少し距離を取っているみたいだし。
一人じゃ、不慣れな土地のお出かけも怖いわよね。既婚者のハツネに、ドイツで恋をしたらとも言えないしね」
クラウゼ教授が悩ましげに首を傾げたその時。