エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「だったら、ディアナが連れて行っておあげなさい」


クラウゼ教授と初音の会話に入ってきたのは、マーシャ・アルジェリーナだ。

実はマーシャは、クラウゼ教授の隣に住んでいた。普段からクラウゼ教授の家へまるで自分の家のようにふらりとやって来る。
クラウゼ教授は一人暮らしのマーシャことを何かと面倒見ていた。まるで本当の娘のように。


「連れて行ってあげたいのだけれど、今月はスケジュールが一杯なの。ごめんなさいね、ハツネ。
そうだ、マーシャ、招待されている演奏会にハツネも連れて行ってあげて。芸術に触れることも大事だわ」

「今月は、聞くべき演奏会は無い。だから、行かない」

「また?行ってみたら、素晴らしい演奏に出会えるかも知れないのに」


二人の会話は、本当に親子のよう。
呆れたように肩をすくめるクラウゼ教授に、初音は思わず小さく笑ってしまう。


「ハツネ、あなたの下手くそなショパン、エチュードを弾いて。10-4ね」


マーシャがリビングに置かれたピアノを指さす。初音は素直にピアノに向かった。
近々出場するコンクールの課題曲に選んだ10-4。マーシャからなかなか合格をもらえずに、練習を重ねている。


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