エチュード〜さよなら、青い鳥〜
初音がエチュードを弾きはじめると、マーシャは黙って耳を傾ける。


「ハツネのピアノはマーシャに似てるわ。本当にピアノが好きだと伝わってくる。若くみずみずしくて、キラキラした音。聴いているこちらも幸せになる音。神様に選ばれた音よ」

クラウゼ教授は、ティーカップにお茶を注ぎながら、ため息混じりにつぶやいた。

「若さは諸刃の刃だがね。人生色々経験すれば、もっと深く心揺さぶるような音が出るよ」

大好きな淹れたてのお茶に口もつけずに、マーシャは初音を見つめている。



そんなマーシャの様子に、クラウゼ教授は信じられない気持ちだ。

気難しいマーシャが、日本人の学生を教えると言い出した時には本当に驚いたものだ。
最近は年齢のせいにして、ピアノの演奏会もキャンセルしがちだというのに、初音を招いてからは、ずいぶんとイキイキして見える。

「もうすぐ、1ゼメスターが終わるわ。初音は日本に帰ってからどうするつもりかしらね」

クラウゼ教授は、チラリとマーシャを見る。

初音のこれからは、マーシャの一存で大きく変わる。クラウゼ教授は、マーシャからの一言を待っていた。

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