エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「向こうから連絡はないの?」

クラウゼ教授の問いに、初音は記憶をたどる。
そういえば、涼から電話やメッセージが来たことはない。

「彼は忙しいから。連絡がないことが元気な証拠」

やや呑気に初音は告げた。


「側にいるならそれでいいが、遠距離は気持ちも離すものだよ」

そんな初音に、マーシャが険しい表情を浮かべて言った。

「私は、2回結婚した。
最初の結婚は、娘を授かった。
2度目の結婚は、憎しみを知った。
どちらも結婚するまでが一番楽しかった。家族を持ってみても、すれ違いばかり。両方を手に入れても、家族には逃げられてしまった。
結局、私には、ピアノしかなかった。ピアニストとしてしか生きられない」


マーシャの言葉が初音の胸に深く刺さる。
実際、初音もピアノ一色の生活で涼とはすれ違いばかり。でもここで自己研磨して、成長することは涼も喜んでくれるはずだ。
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