エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「マーシャ・アルジェリーナが来日するぞ、四辻くん!」

アリオン会長が、興奮気味に涼に知らせてくれたのは、真夏の暑い日だった。

「日本で一条財団主催のチャリティーリサイタルを開催することになった。
いやぁ、一条がかなり奔走してくれて実現した」

「それは、いつですか?」

「晩秋だな。今、日程の調整中だ。マーシャ・アルジェリーナの生演奏が日本で聴けるぞ!
初音も同行するはずだ。あの子が神さまに教えを受けているとは、今でも信じがたいよ」

会長の興奮した声を電話越しに聞きながら、涼は少々落胆していた。
日本に来ると、初音自身から聞きたかった。もう丸二か月、連絡はない。

「そうだ、先日のドイツでのコンクール、決勝の様子が手に入ったから、四辻くんのパソコンに送っておいた。まだ、見てないだろ?」

ーー見てないも何も、ドイツのコンクールとは、一体何のことだろう?

会社のパソコンメールに、会長から添付ファイルつきのメールが届いていた。おそらくはこのことだ。

「また、詳しいことが決まったら知らせるな。
もし、何か有れば協力してくれよ?」

「もちろんです。ありがとうございます、会長」


会長との電話を切ったあと、涼は耳にイヤホンをつけて、ファイルを開いた。


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