エチュード〜さよなら、青い鳥〜
社長室からの帰り。たまたま通りかかった営業部から、一人の女性が出てきた。
すれ違い様にふと目が合う。
「…涼?」
「…陽菜?どうして、君がここに?」
「お使い。急ぎの書類を届けに来たの」
陽菜の服装に、涼は面食らう。アリオン本社の事務職の制服を着ていたからだ。陽菜は秘書だから仕事中も私服のはずなのに。
「あぁ、これ?私、異動になったの。営業二課に」
涼の視線に気づいて、陽菜は制服のスカートをちょっと摘んでみせる。
「…そう」
秘書の仕事は天職だと言っていた。彼女に、何があったのかはわからないが、決して望む仕事をしているわけではないようだ。
「…涼?どうかしたの?顔色があまり良くないわ。なんだか老けて見える。疲れてるみたいね」
懐かしい声。かつて、愛しいと思っていたその声が優しく涼を気遣う。
「…夏バテ、かな。最近暑いから。
じゃ、俺、仕事戻るから。陽菜もお疲れ様。気をつけて帰れよ」
うっかり、その優しさに懐かしさを感じた自らを律する。
初音が居なくて弱っているとはいえ、目の前の優しさがうれしく思えるなんて馬鹿げている。