エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「ピアノは趣味に留めて、仕事するのもいいかなぁって。せっかく“新卒”だし」
「働く?じゃ、『アリオン』にするか?」

ピアノを勉強することを辞めると示唆しても、広宗は反対しない。それどころか、縁故採用での就職を軽く提案してくる。

「私が入れば、本気で『アリオン』で働きたいと頑張って就活してる優秀な人材が1人、はじかれる。それは出来ないよ」

「そんな真面目な考え方、恵にソックリな」

広宗はまんざらでもなさそうに笑って、コップに注いだビールを美味しそうに飲む。


「お父さんが楽観的すぎるのよ。初音、教員とかピアノ教室とか、教える仕事は?」
「無理!それは、お母さんの方がよく分かってるでしょ?」

高校の英語教師をしている恵は、渋い顔をしながら大きくうなづいた。

「それはそうね。音楽教師の門は極狭よね」

「それより何より、お母さんやおばあちゃんみたいに“人に教える”ことが出来ないの。
私、感覚でピアノ弾いてるから。“どうして?”とか、“なぜ?”に答えられない」

初音の亡き祖母はピアノを教えていた。初音がピアノに触れるキッカケになったのも、祖母だ。


「これからもピアノに関わっていたいなら、音大の絡み以外にも人脈を持っていた方がいいだろうな。
悩んでるなら、とりあえずうちに来るか?
アリオンエンタープライズなら、音楽家の卵もベテランも、知り合う機会は多いぞ。勉強にもなるだろうし、今後の活動の幅も広がるし。
一緒に最高の音楽を届けていこう」
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