エチュード〜さよなら、青い鳥〜
初音は一つ、大きく息を吐いた。

離れていても涼の存在はいつも心にあって、初音を支えていた。

でも。涼の心はどうなのだろう。
離れていることで、心も離れてしまったのだろうか。

一度手に入れたものは、自分のものだと安心して疑うことなどなかった。真面目な彼の浮気を心配することもなく、変わらず待っているとたかをくくっていた。


だが、思い返せば最初から、会いたいとか声が聞きたいとか連絡をするのはいつも初音から。涼からの連絡はほとんどない。


初音が連絡をしなくても、涼はたぶん平気なのだろう。


結局は、そういうことなのだ。


涼はアリオンでの立場を優位に保つ為に初音と結婚した。その結婚だって初音が言い出し、勢いでしたようなものだ。
心が離れるどころか、最初から初音の一方通行だったのではないだろうか。


ーー私たち、出会わなければよかった。


初音の心にそんなネガティブな発想まで浮かんでくる。

初音は涼が大好きで、ずっとそばにいて欲しいから、結婚という選択をしたけれど。

この結婚は間違いだったのかもしれない。



初音は、ベッドの中に潜り込んで目を閉じる。
何故か、マーシャの奏でるショパンの『別れのエチュード』が頭をよぎる。
それは、まるで涼を「過去」の思い出にするように、甘く切なく初音を包んだ…





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