エチュード〜さよなら、青い鳥〜



時に父の言葉は、迷っている初音を導いてくれる。




大学進学の時もそうだった。

コンクールでの苦い経験があり、初音はピアノを辞め、大学も得意な英語を活かせる英文科を受験しようかと悩んでいた。


そんな初音に、父は言ったのだ。


「初音は、誰かに評価してもらいたくてピアノを弾いていたんだっけ?」


ーー低評価や悪評価をするならすればいい。気に入らないなら私の演奏を聴かなきゃいい。
誰かの為に弾いてるわけじゃない。
私がピアノを好きなの。楽しく弾いていたいだけなの。


父の言葉でそんな風に自暴自棄になっていた自分に気づいた。


「初音、どうせピアノを弾くなら、弾いている自分だけじゃなく、聴いてくれる人も楽しませてしまえ。感動させて、幸せにしてやるんだ。幸せの共有ができるなんて絶対最高だぞ。
初音にはピアノでそれが出来るんじゃないかなと、俺は思うよ。それを目標に音大に進むのもアリだろ?

もちろん、このままピアノを辞めてもいいさ。英文科もいいな。英語漬けの毎日も楽しそうだ。そうだ、ホストファミリーになってうちで留学生の面倒をみるか、女の子限定でな」


「もう、お父さんっ!せっかくいいこと言うなぁって思ってたのに」


父と大笑いした時には、初音の気持ちは決まっていた。
ピアノを続ける。弾いてる自分も聴いている人も楽しんで幸せになれる演奏をしたいから。
そのために、音楽大学への進学を決めたのだ。


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