エチュード〜さよなら、青い鳥〜
早速移動をしながら、いぶきとクラウゼ教授が今回のリサイタルについて話し合いを始めた。


「疲れただろう、初音。丹下の家に送るかい?」

優しい拓人にホッとしながら、初音はゆっくり首を横に振った。

「ううん。マーシャとクラウゼ教授をホテルに送って、食事してから帰る。通訳しないと。マーシャは、日本食が大好きで楽しみにしてるから」

「通訳なら、いぶきに任せてもいいぞ?食べたいものをリクエストしてくれれば、最高のおもてなしをさせてもらうって、伝えて」

拓人の言葉を通訳すると、疲れを見せていたマーシャの顔が輝く。

「ハツネとより、ハンサムなイチジョウと一緒の方が楽しく食べられそうだ」

口の減らないマーシャに呆れて、そのまま日本語にする。

「…と、言ってる。
マーシャは、ピアノを弾けば神の領域だけど、普段はただの口の悪い婆さんだから。おじ様、気をつけて。ビックリしないでね」

「ハツネ、悪口言ったね?」
「マーシャ、もしかして、日本語わかるの?」
「悪口は、雰囲気でわかるのさ。
ま、私たちの事は気にしないで、久しぶりに家族に会っておいで」


ポンポンとリズムよい会話。打ち解けた雰囲気に拓人は思わず感心する。
初音が、あのマーシャ・アルジェリーナとまるで祖母と孫のように見えた。
< 201 / 324 >

この作品をシェア

pagetop