エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「久しぶりね、涼」
「あ…あぁ、元気そうだね、初音」

そう日本語で言葉を交わすと、涼はマーシャとクラウゼ教授に深々と頭を下げた。

「マーシャ・アルジェリーナさん、ディアナ・クラウゼ教授。
妻の初音に、最高の音楽を学ぶ機会をくださってありがとうございます」

涼はおそらく、練習してきたのだろう。たどたどしいドイツ語で挨拶した。



「おや、まぁ。真面目な男だねぇ。…ハインリヒを思い出したわ」

マーシャはそんな涼を見て聞き慣れない名前を出した。

「ハインリヒ?」
「マーシャの最初の夫よ。オーケストラの指揮者で作曲家。今は英語読みでヘンリー・クラウスと名乗ってる。知ってるかしら」

聞き返した初音にクラウゼ教授が教えてくれた名前は、日本でも『音楽の神様』として有名な指揮者の名前だ。

「私の夫は普通の会社員よ、マーシャ。
音楽の神様とは違う」
「音楽の神様?とんでもない、ハインリヒは頭でっかちで、クソ真面目なつまらない男さ。
彼がハインリヒに似てないことを祈るよ。
さ、行こう、ディアナ。私は疲れた。美味しい日本食を食べたいよ」



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