エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「俺のことなんて心配いらないから、ピアノに集中して。ピアノの神様とのレッスンはどうだい?
俺はドイツ語はわからないけど、さっき見た感じだとまるで家族のようだったよ」

「うん。最高の環境にいるよ。今はクラウゼ教授の家に居候させてもらってるんだけど、隣がマーシャの家でね、三人でご飯食べたりもしてる。マーシャの家に泊まり込んでしまうこともあるの」

「それはすごいじゃないか!そんな環境にいると知ったら、会長ビックリするよ。何しろ、会長はマーシャ・アルジェリーナの大ファンだから」

涼の目が輝く。祖父ともどんどん仲良くなっているようだ。ピアノのことになると夢中になって、輝くような笑顔があふれる。なんだか懐かしい。

「俺は断然、初音のファンだけど。
君のピアノが生で聴けるのが楽しみだよ」

真っ直ぐに、突き抜けるような目線。
初音の胸がトクンと打つ。忘れていた感情が込み上げてくる。

ーーそうだ。私はこの人が大好きだった。
とにかく全力で初音を応援してくれるこの人が。


「…涼」


心のままに、涼に抱きついた。
抱き止めてくれるその広い胸が、温かい腕が、懐かしくて、愛おしくて。
少しでも近くにいたくて、何より、不安を拭いたくて、貪るように彼を求めた。
















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