エチュード〜さよなら、青い鳥〜




目が覚めると、室内は暗くなりつつあり、窓の外には暮れゆく空が広がっていた。鳥の群れが空を横切っていく。寝ぐらに帰るのだろうか。



涼の腕を枕に初音はよく眠っている。



午後から休みをもらい、空港に駆けつけた。
丹下社長は初音を涼のマンションに泊まらせて、と言ってくれたが、ピアノはおろか生活用品もろくにない涼のマンションに初音を泊めることは考えていなかった。

だが。初音が陽菜のことを気にしていると知って気持ちが変わった。

不安を抱かせた自分が悪い。
安心してピアノに打ち込んでもらう為なら、苦手な嘘だってつこう。

陽菜ともう一度どうにかなるつもりなど、さらさら無いのは事実。
だが。
朝まで一緒にいたのも、事実だ。これに関しては用意しておいた事情を説明した。綻びが出ないように、充分に事前に考えておいた『吐いた』という理由。実際には、吐いてはいない。抱いたのかも曖昧なまま。
陽菜は意味ありげな素振りをみせ、今でも復縁を迫ってくる。だが、そこは毅然とした態度で拒否している。
自分が蒔いた種とはいえ、正直、辟易していた。


やはり、初音が側にいてくれると嬉しい。実質的な距離に比例するように、気持ちも遠ざかってしまうような錯覚に陥ってしまっていたから。
側にいれば乾燥していた感情も蘇り、愛おしさが増す。


ーー俺は、弱いな。自分の心がこんなに弱いとは知らなかった。





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