エチュード〜さよなら、青い鳥〜
コンクールに出場しない理由
紺色のシンプルなスーツに身を包み、初音はアリオンエンタープライズの本社ビルの中に入る。
12階、第三会議室。ドアのプレートを確認して、初音はドアをノックした。
「はい」
男性の声で返事がある。
「本日14時に面接のお約束をしております、丹下初音と申します」
「はい、どうぞ」
長テーブルが一つ。そこに椅子がニつ並び、その一つに男性が座っている。
向かい合うように、テーブルから少し離れたところに一つだけ置かれた椅子。
「どうぞ」
その椅子に座るように指示され、初音は腰を下ろした。
それから、人事担当の男性を見る。
「あれ、どこかでお会いしましたね」
男性の顔に見覚えがある。高い鼻筋。メガネの奥の目は切れ長。髪は短髪で程よく整えられ、エリートを絵に描いたような雰囲気の男性。
「もしかして、“ソレアード”というミュージックバーで…」
「無駄口は結構です。これは、面接ですよ」
ピシャリと言われて、初音は慌てて口を閉じた。
この声。間違いない。ショパンの日に『革命のエチュード』をリクエストして、初音の演奏を褒めてくれた男性だ。