エチュード〜さよなら、青い鳥〜
第5章 あなたのいない世界
母と娘
「…ハツネ、少し休みましょう?」
ドイツに戻るなり、取り憑かれたようにピアノに向かう初音に、クラウゼ教授は心配そうに声をかけた。
だが初音は、ピアノを弾くことをやめない。
「…ハツネ」
「ディアナ、放っておきなさい。今のハツネには聞こえないさ」
マーシャには離婚した初音の気持ちが痛いほど良くわかる。かつての自分とその姿が重なった。
「別れ際の男の台詞。『君は、妻としてではなく、ピアニストとして生きるべき』だなんて。ハインリヒと同じこと言いやがってさ。
似たような男だって思った私の直感が当たっちまうとはね。
そう言われたら、もう、ピアノしかないのさ」
「だけど…食事くらいちゃんと食べないと、体を壊してしまうわ。ハツネが好きなアイスバインを作ったの。少し食べてくれるといいんだけど…」
クラウゼ教授は、皿にアイスバイン(豚肉を香味野菜や香辛料と長時間煮込んだドイツの家庭料理)をよそって、ピアノ室へと運んできた。
いつもの初音なら、その美味しそうな匂いに、目を輝かせてくれるが。
「ハツネ?」
ドイツに戻るなり、取り憑かれたようにピアノに向かう初音に、クラウゼ教授は心配そうに声をかけた。
だが初音は、ピアノを弾くことをやめない。
「…ハツネ」
「ディアナ、放っておきなさい。今のハツネには聞こえないさ」
マーシャには離婚した初音の気持ちが痛いほど良くわかる。かつての自分とその姿が重なった。
「別れ際の男の台詞。『君は、妻としてではなく、ピアニストとして生きるべき』だなんて。ハインリヒと同じこと言いやがってさ。
似たような男だって思った私の直感が当たっちまうとはね。
そう言われたら、もう、ピアノしかないのさ」
「だけど…食事くらいちゃんと食べないと、体を壊してしまうわ。ハツネが好きなアイスバインを作ったの。少し食べてくれるといいんだけど…」
クラウゼ教授は、皿にアイスバイン(豚肉を香味野菜や香辛料と長時間煮込んだドイツの家庭料理)をよそって、ピアノ室へと運んできた。
いつもの初音なら、その美味しそうな匂いに、目を輝かせてくれるが。
「ハツネ?」