エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「…ちょっとお待ち、ハツネ。日本で最後にダンナと寝たかい?」

「え?」

いきなり、マーシャから突拍子もないことを言われて、初音は目を丸くする。

「なんとなく私のカンだと、妊娠してる気がするよ。心当たりがあるかい?」

「に、妊娠?まさか!まさか…?」

初音は、口をつぐんでしまう。
日本でリサイタルの前夜、まだ離婚なんて全く考えていなかったとき。
福岡陽菜との浮気を疑っていた初音は、彼女の影を消したくて。離れていた分、少しでも近くにいたくて。貪るように、彼を求めた。
でも、いくら肌を重ねても、彼に感じた違和感を消すことが出来なかったことを思い出す。

「ディアナ、妊娠検査薬を買ってきてちょうだい。心当たりがあるなら、調べてみよう」

クラウゼ教授はすぐに飛び出すようにして買い物に行った。



「違う。絶対に違う。妊娠なんて、していない」



初音は、自分にいい聞かせるように日本語で呟く。
だが、一度疑ってみると、時期的に妊娠が発覚してもおかしくない。何より、生理が遅れている。
離婚によるショックで体が不調を起こしているだけだと、思いたかった。


だが。



クラウゼ教授が用意してくれた検査薬は、陽性反応を示した。


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