エチュード〜さよなら、青い鳥〜
初音は、そっとお腹に手を置いて目を閉じる。
ーーここに、本当にいるのかな。いるんだよね?



子供が授かるなんて、予想もしていなかった。
結婚していたのだから、子供のことも考えなければならなかったのに。
涼は、子供を持つことにどう思っていたのだろう。


改めて気づく。涼と共に生きていく未来について、二人で話し合ったことがなかったと。


振り返れば、涼は、一度も初音に『好き』というような愛の言葉をくれなかった。
ピアニストとしての初音を全力で応援してくれていても、初音自身に愛情は抱いていなかったのかもしれない。


ーーしかたがない。私は涼にとってアリオンでの立場を優位に保つ為の存在だったのだから。


涼、ごめんね。
父親になって欲しいなんて、思わないから。子供にも、あなたのことは言わないから。
夢を叶える為にこれまでの全てを捨てて、一から頑張るあなたの邪魔は決してしないから。


正直、あなたの赤ちゃん、ものすごくうれしい。あなたとの関係は終わった過去だけど、赤ちゃんは未来につながる希望。あなたに届かなかった愛情を赤ちゃんに注ぎたい。


だから、私、あなたがいない世界で。


お母さんになる。




決意した瞬間、モノクロだった初音の世界は、希望できらめく色鮮やかな世界になった。





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