エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「ママ!」
「涼音ちゃん、大丈夫。大丈夫だから、おばあちゃんと一緒にいようね」

初音の母、恵は涼音に話しかけ、優しくあやしながら、初音の後から部屋を出た。

「恵、こっち。特別室用意したから」

そこへやってきたのは、広宗だ。

会場の入場が始まって、ロビーがざわつき始めた。幼い子供の姿はほとんど見られない。そんな中で涼音の甲高い泣き声は目立つ。恵は早足でロビーを横切り、広宗が用意してくれた部屋に向かおうとした。


最初に気づいたのは、恵だった。


比較的フォーマルな服装の来場者が多い中に、ひどくくたびれたスーツがふと目についた。手入れのしていない髪。あまり、この場にそぐわない雰囲気で背中を丸めて一人で入ってきた人物。


「…ヒロ、あれ」


先を行く夫の腕を咄嗟につかんで、恵はその人物を指差した。


「…やっぱり来たか。恵は、涼音を連れて先に行って。この先の階段を登って、最初の部屋。VIPルームβって書いてある部屋で、親父がいるから。ここは、俺にまかせて」


広宗が恵の背を押す。恵は目立たぬように、早足でその場を去った。




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