エチュード〜さよなら、青い鳥〜
二人は連れだって、ロビー横のホワイエと名付けられた少し開けた空間へと移動する。


「久しぶりだな。元気かい?」
「…はい。おかげさまで何とか生きています。社長もお変わりないようで、何よりです」


ふわりと浮かべた涼の笑みは、どこか憂いをたたえている。とても充実した生活を送っているようには見えなかった。


「…すみません。あんな形で出て行って、合わせる顔も無いのですが、どうしても聴きたくて…ヘンリー・クラウスの指揮で、マーシャ・アルジェリーナのピアノが聴けるなんて、この機会だけは逃したくないと来てしまいました」


「それだけ?初音のピアノは?」


初音の名前を出した途端に顔をしかめて、涼は唇を噛んだ。


「気にはしてるわけだ。まぁ、そうだろうな」


涼は目を伏せて唇を噛んでいる。

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