エチュード〜さよなら、青い鳥〜
広宗は、核心に触れた。
離婚してからの出産とはいえ、涼音は婚姻関係中に授かった子供として、涼の子供となっている。
そのことを涼は知っているのか、知らないのか。

「一人で生きていくだけで精一杯ですから。
友人も去って行きました。実家の家族にも呆れられて放って置かれていますし、身軽なものです」


どうやら、涼音の存在には気づいていないようだ。
真面目な涼のことだから、涼音のことを知っているならこんなに自由にはしていないだろう。責任を負うと考えるはずだ。


初音には、涼が涼音の存在を知るまで黙っていて欲しいと言われていた。


「あぁ、まもなく開演です。
社長にお会いできて良かった。不義理ばかりの自分を気にかけてくださって、ありがとうございます」


そう言って、涼は広宗に深々と頭を下げて会場へと去っていく。


ーー正解はどっちだ。


涼音のことを言うべきなのか。涼に、自分の子供が存在することを知らせるチャンスは今なのか。

いや、初音が望んでいないのに出しゃばるべきではない。涼も、今の落ちぶれた姿を初音に見られたくはないだろう。

だが、もし自分が涼の立場なら。
子供がいるなら知りたいし、可能なら会いたいと思う。


広宗は去っていく涼の丸まった背中を見つめ、自問自答を繰り返す。
百戦錬磨のカリスマ社長と言われる広宗も、娘と孫の幸せを思うと、答えを出せなかった。



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